2024年01月13日更新
競売件数の推移から見る任意売却件数増加の理由!
目次
最初に知っておきたい競売件数の推移
不動産の競売には「担保不動産競売」と「強制競売」の2種類があります。また競売件数を扱うデータとして「司法統計」が使用されますが、「司法統計」とはどのような資料のことなのでしょうか。
司法統計データから見る競売件数の推移
まず「司法統計」とは、裁判所が扱っている事件の統計のことで最高裁判所事務総局が集計結果を取りまとめています。集計結果は司法統計年報と司法統計月報として刊行されます。
刊行された司法統計は、裁判所のホームぺージにも記載されており自由に閲覧することができます。
先程競売には「担保不動産競売」と「強制競売」の2種類があるとご説明しましたが、それぞれの違いを見ていきましょう。
担保不動産競売
住宅ローンを利用して住宅購入費用を支払う時に銀行などの金融機関は該当する不動産を担保に、債務者にお金を貸します。これを「抵当権」と言います。
担保不動産競売とは、債務者が住宅ローンを支払えない場合、銀行などの債権者が「抵当権」を実行し該当する不動産を強制的に売却することを言います。そして、売却代金を住宅ローンの残債に充て債権回収を行います。
一般的な競売物件のほとんどはこの「担保不動産競売」のことです。通常不動産競売には事件番号が記載されますが、担保不動産競売の場合は事件番号の前に(ケ)と記載されています。
強制競売
強制競売とは、債権者の不正行為や契約違反などで加害者になり裁判で敗訴した場合、裁判所を通して債務者の該当する不動産を強制的に売却する手続きのことです。強制競売の場合は事件番号の前に(ヌ)と記載されています。
では、「担保不動産競売件数推移」と「強制競売件数の推移」を詳しく見ていきましょう。
担保不動産競売件数の推移
担保不動産競売件数は平成21年度に増加して以降減少傾向にあり、平成12年と平成26年を比べると約3分の1まで減少しています。
また債権者が競売の申し立てをした後に行う担保不動産競売の「取り下げ」の割合は全体の約20%になり、割合の変化はほとんどありません。
強制競売件数の推移
強制競売件数は年々減少傾向にあり、平成12年と平成26年を比べると約3分の1まで減少しています。強制競売を取り下げる割合は約50%で、担保不動産競売件数と同じく取り下げの割合は一定で変化はほとんどありません。
競売件数が減少し任意売却件数が増加している理由
競売物件が減少し任意売却件数が増加している理由はどのようなことがあるのでしょうか。競売物件が減少している原因と任意売却件数が増加している原因に分けて見ていきましょう。
競売件数が減少している原因
競売物件が減少している原因として、中小企業金融円滑化法による影響が大きいと言われています。
中小企業金融円滑化法(通称:モラトリアム法)とは、個人や中小企業が金融機関からの借金を返済しやすくするために施行された法案のことで、2年間のみの時限法でしたが二度の延長の末2013年3月末で終了しました。
2008年に起きたリーマンショック以降の経済危機で一時的に住宅ローンの破綻者が増加しましたが、この金融円滑化法によってその増加を防ぐことができました。
また金融庁から金融機関に金融円滑化法へ積極的に対応するように指導があったこともあり、競売件数の減少に繋がったと言われています。
中小企業金融円滑化法以前は任意売却が難しい場合、債権者が司法競売に任せるスタンスでした。
しかし、中小企業金融円滑化法案の施工後は金融機関がリスケジュールに柔軟に対応し、返済猶予を調整して個人や企業を延命させるスタンスに変わりました。
この法案の終了以降も、金融機関が住宅ローン滞納者に対して強制的に競売に任せるようなスタンスをとらないことで、現在も競売件数の減少が続いています。
任意売却件数が増加している原因
任意売却件数が増加している原因として、インターネットの普及などによって任意売却という方法を知る人が増えたことが考えられます。
任意売却とは住宅ローンの支払いが困難になった場合、任意売却専門業者が債務者と債権者の間に入り調整を行い、債権者の合意を得て該当不動産を売却し抵当権を抹消する取引のことです。
その他に任意売却件数が増加している原因として考えられるのは以下の通りです。
- 都市化一極集中化により地方の地価が下落しており、任意売却の場合競売より高値で売却できるため
- 担保割れの物件は競売にかけても相場程度にしかならないため、債権者が任意売却の交渉に同意しやすいため
- 空き家問題などで地価の下落を利用したい媒介業者が増え、任意売却市場が盛んになっているため
- 大手の不動産会社などの媒介業者が任意売却の専門アドバイザーなどを付けて対応しており、任意売却に積極的であるため
任意売却は競売の代わりとなる不動産流通方法ですが、競売と違い債権者と交渉することで受けられるメリットもあります。そのようなメリットも任意売却件数の増加理由になるのかもしれません。
任意売却と競売の売却価格や諸費用の差について
任意売却と競売では売却価格や費用にどのような違いがあるのでしょうか?
任意売却する場合の価格や費用の特徴
任意売却によって不動産を手放す場合のメリットは、不動産の市場価格に近い価格で売却できる可能性が高い、銀行との売却価格の交渉を任意売却事業者に任せられるなどがあります。
また、ローンや管理費、税金等が滞納されている場合についても、売却時にまとめて処理できるため、漏れなく手続きができるという点もメリットです。
諸費用についても、建物を不動産業者等に売却する形となるため、手持ちの資産から別途費用を用意する必要がありません。
住宅ローンの残債の支払いに関しては、売却益が競売に比べて高額になるため、支払い額を減らすことができ、返済プランを組みやすいというメリットもあります。
その他にも、立ち退きの際にかかる引っ越し費用についても、債権者との交渉によって最大で約30万円まで受け取ることができるのも任意売却の大きな特徴と言えるでしょう。
競売の売却価格や費用の特徴
競売の場合は物件を強制的に処分して債務を支払う手続きとなるため、任意売却に比べてデメリットが多くなります。
売却費用は複数の業者ができる限り安価に購入しようと入札を行うため、市場価格の約7割以下になる可能性が高いです。
また、管理費や税金の滞納分についても手続きや支払いは自分持ちとなりますし、引っ越し費用についても自分で用意する必要があります。
ローン残債の支払いについても、競売にかけられる場合は退去命令が出ている可能性が高いため、一括返済を求められることが多く、分割などの交渉も難しくなるでしょう。
その他にも、不動産会社への仲介手数料や抵当権の抹消費用といった諸経費についても負担することになりますので、競売後に手元に残る資産がほとんどないという場合もあります。
任意売却と競売の売却価格に差が生まれる理由について
任意売却と競売では何故売却価格に大きな差が生まれてしまうのでしょうか?
競売物件の売却価格が低くなる理由についてご説明します。
買い受けた物件に欠陥があった場合に責任を追及できない
通常、物件を購入した際にあらかじめ公表されていない瑕疵が存在した場合には、売主に補修や修繕費用を請求することができます。
しかし、競売物件の場合はこれらの責任追及ができないため、購入後にどれだけ修繕費用がかかるかわかりません。
そのため、ある程度の修繕費用がかかるのを前提とした価格で業者は入札を行うのです。
内覧不可のため、事前に物件の確認を行うことができない
競売物件は不動産取引ではないため、購入前に内覧を行うことができません。
そのため、実際に購入してみないと建物の状態がわからず、基礎が歪んでいるなどの問題があっても前もって知ることができないのです。
また、競売物件の購入については銀行でローンを組むことが難しいのも価格が下がる理由となります。
このように、物件を購入するに当たってのリスクが大きいこと、費用面での負担が大きいことが競売物件の売却価格が市場価格より大幅に安くなってしまう理由です。
任意売却・競売のメリット・デメリットについて
任意売却のメリットと、競売のデメリットについて詳しくご紹介していきます。
任意売却のメリット・デメリット
任意売却は競売に比べると、債務者にメリットの多い売却方法です。
任意売却のメリット | 任意売却のデメリット |
---|---|
市場価格に近い金額で売却できる 残債の減額や分割払いに対応してもらえる可能性がある 引っ越し面で融通が利く可能性がある プライバシーが保護される | 通常の売却と同等の手続きが発生する 条件をクリアしていなければ行えない(競売しか選択できない) 任意売却の悪徳業者も存在する |
任意売却のメリットは?
任意売却の場合、競売に比べると市場価格に近い金額で売却される傾向にあります。
それに伴い、残債を少しでも多めに減らせる可能性も高く、債権者に売却後の返済計画について話し合いに応じてもらえる可能性が高くなります。
また、強制的に立ち退きを執行される競売と違って、任意売却は引っ越し面でも融通が利きます。
債権者との交渉次第では、引越し時期を融通してもらえる可能性もあり、売却額から引越費用を受領できるケースもあります。
また、近年では任意売却後に「リースバック」が行われている家もあります。
任意売却では購入者を指定できますので、第三者に任意売却で家を購入してもらい、元の持ち主は購入者に賃料を払えば、売却後も今の家に住み続けることが可能です。
なお、競売の開札前日までであれば、任意売却の手続きに移ることもできます。
任意売却のデメリットは?
任意売却を行うためには、以下の条件をクリアしておかなければなりません。
- 担保権利者(債権者)全員の同意を得ること
- 共有者の同意を得ること
- 連帯保証人の同意を得ること
- 競売の入札が始まっていないこと
- 不動産に売却物件としての価値があること
- 別の理由で物件が差し押さえられていないこと(固定資産税の滞納など)
売却予定物件の市場が低く、債権を回収できるほどの売却額が見込めないと判断された場合は、担保権利者から任意売却の同意を得られないこともあります。
さらに、任意売却では不動産会社との媒介契約や販売活動など、通常の売却と同等の手続きが発生します。
従って、一通りの不動産売却の知識を身につけておかなければ、残債を返済できるほどの売却益が見込めない可能性も出てきます。
また、任意売却希望者の不安や負い目に付け込む、悪徳業者も存在することも忘れてはなりません。
競売開始までに任意売却の手続きを進めようとして、焦って得体の知れない仲介業者と契約しないようくれぐれも注意しましょう。
メリットの項目でご紹介した任意売却後の「リースバック」についても、家賃が勝手に引上げられた、突然立ち退きを要求されてしまった等のトラブルに巻き込まれるリスクを考慮しなくてはなりません。
任意売却では、介入する第三者の素性をきちんと確かめておかなければなりません。
競売のメリット・デメリット
競売のメリットとデメリットを比較すると以下のようになります。
競売のメリット | 競売のデメリット |
---|---|
不動産の持ち主が手続きを行う必要がない 債権者が多い場合は揉めにくい 長く家に居られる | 売却価格が相場より安い 住宅ローンなどの残債は残る プライバシーが守れない 強制的に立ち退きを迫られる |
競売のメリットは?
競売では、債権者である金融機関と裁判所が強制的に手続きを進めますので、債務者である不動産の持ち主は一切の手続きを行う必要がありません。
通常、不動産を売却する場合は、複数社に査定を依頼して納得できる査定価格の不動産会社を探すことになります。
不動産会社が決まったあとは媒介契約を結び、買い手が見つかるように清掃やリフォームなどを行いながら、物件が売れるまで様々な準備や手続きをこなさなくてはなりません。
その他、競売の売却額は配分のルールが決まっているため、抵当権を付けた順に従って自動的に債権者に売却額が配分されます。
任意売却の場合、債権者が複数いる場合は配分ルールを調整しなければならず揉めることがあります。
こうした手続きが一切発生しないという点では、競売は最も手間のかからない売却方法と言えるでしょう。
また、競売物件が落札されると所有権が購入者に移り、立ち退き命令が出されますが、競売の開始通知から立ち退きまでは、約4カ月~1年間かかりますので、それまでは家に居続けることができます。
競売のデメリットは?
競売の最大のデメリットは、売却価格が相場より安いことで、一般的な市場相場の約6~7割にしかならないと言われています。
近年は、中古物件を安く購入できる競売に注目する動きも増えており、建物が比較的新しく綺麗な物件や、好立地の物件などは比較的高価格で取引されるケースもあります。
ただし、市場に流通している物件と違っていつでも内覧できない不便さや、債務不履行による差し押さえなどのマイナスイメージが付きまとうことなどを考えると、高価格の落札は期待しない方が良いでしょう。
売却額が安ければ残債はその分残るため、競売では不動産を手放しても残債を支払い続ける可能性が極めて高いと言えます。
また、競売物件はBIT(競売物件情報)サイトに、物件の外観と住所が公開され、自治体の情報誌や新聞にも掲載されますので、プライバシーが保護されません。
近隣の方に「差し押さえで競売にかかってしまった家」という噂が広まれば、立ち退きまで辛い思いをすることになるでしょう。
その他、競売では立ち退き命令が出るまでは比較的長く家に居続けられますが、引越代も用意できず新しい住まいも見つからないといった債務者の都合に関係なく、強制的に立ち退きを迫られることに注意しなくてはなりません。
競売か任意売却かを選ぶときのポイント
担保となっている不動産を手放す場合は、裁判所の命令に従って競売に進むことも、競売開始までに任意売却の手続きを進めることも可能です。
しかし、ご自身の生活や借入状況によっては、どちらかを選択した方が売却後も安心して暮らせる可能性が高くなります。
競売にすべきか、任意売却すべきか選ぶ時のポイントを知っておきましょう。
競売が向いているケース
自己破産手続きを計画している場合は、売却後に残債を返却する必要がありませんので、売却益が少額でも競売を選んでしまった方が、余計な手続きに時間を取られず売却後の生活の準備に専念できます。
また、複数の消費者金融等から借り入れしている場合、任意売却を選択すると金融業者同士で配分ルールについて揉める恐れがあります。
交渉が難航すると、売却後の引っ越し代や生活費がもらえなくなったり、売却後の債権回収がさらに強引になったりするなどのリスクが生じます。
一つの金融機関だけでなく、消費者金融などが絡んでいる場合は、配分ルールが確定している競売を選んだ方が、売却後の生活のためにも良いでしょう。
任意売却が向いているケース
担保となっている不動産の価値よりも、住宅ローンの残債が上回る「オーバーローン」の状態であれば、任意売却を選んだ方が、売却益によって住宅ローンを完済できる可能性がより高くなります。
また、競売は物件が落札されると強制的に立ち退くことになりますので、引っ越し資金の準備や新居探しが立ち退き期限に間に合わない恐れがあります。
少しでも引越し時期を調整したい場合は、任意売却手続きによって、引っ越し時期の融通を交渉すると良いでしょう。
また、今の家に住み続けたいという場合は、任意売却後、デメリット面を把握したうえでリースバック契約をするという方法も有効です。
不動産売却に対応する優良な不動産会社を見つけるには?
ここまで説明してきた不動産売却は、あくまで一例となっています。
正確な売却金額を知るためには、売却前に「売却査定」を受ける必要があります。
そのとき大事なのが、複数社に査定依頼して必ず「比較検討」をするということ!
「調べてみたもののどの会社が本当に信頼できるか分からない…」
「複数社に何回も同じ説明をするのが面倒くさい...。」
そんな方は、簡単に無料で一括査定が可能なサービスがありますので、ぜひご利用ください。
一生のうちに不動産売却をする機会はそこまで多いものではありません。
後悔しない、失敗しない売却をするためにも、不動産会社選びは慎重に行いましょう!
この記事の監修者プロフィール
株式会社worth style home
濵田昭平2005年より東京急行電鉄株式会社財務戦略室主計部にて都市開発における多様な事業セグメントの業務を経験。2012年1月より都心部で高級マンション賃貸仲介業を展開する株式会社ModernStandardへ転職し、賃貸仲介営業職での最短トップ記録樹立。2014年1月より「株式会社worth style home」での総合不動産業をスタート。1,000万円~10億のマンション・土地等の売買仲介業務を行う。
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